2025年5月2日

石苔亭いしだの能舞台について

能舞台が重要な文化遺産とされる理由は、
伝統的な美意識と建築技術の結晶であり、
また、能の精神性のみならず、
日本の精神性の象徴であるからといえます。

能舞台の起源は、神社や寺院の境内などに
建てられた舞台に遡ります。
能は元来、神事芸能として発展してき
た歴史的背景がございます。

能舞台に描かれる鏡板の大きな老松は、
奈良の春日大社にある「影向(ようごう)の松」
に由来すると言われ、神がこの松に降臨して
舞を舞ったという伝説に基づいています。
鏡板の松は不変の存在として、神聖な存在であり、
永遠性を示しています。

また、能舞台に使われる檜の木は、
神社仏閣の建築に用いられてきた素材であり、
清浄さや神聖さの意味もございます。
建築には熟練の宮大工の技も必要としております。  

能舞台は単なる建築物を超えた、深遠な意義を持つ存在であり、
その永続的な存在となっております。

当館の能舞台は三十六年となりますが、
創業者である実父が価値を見出し、建築技術も檜も、
最上のものにこだわって作り上げました。
そして、能舞台に歴史的な「時間」「歳月」という背景を、
舞台で演じられる本物の先生方にここで演じて頂き
十年以上もの歳月を重ね、「本物」の舞台となりました。

現在、能舞台は国産の檜が手に入らないことや、
熟練した宮大工の不足していることを考えると、
今後日本国内では建築される事は難しいかもしれません。
能舞台をはじめ、日本の精神性、幽玄さを表す文化遺産は
時間が立つほどに唯一無二の貴重な価値と存在感となっております。
能舞台に限らず、日本の文化が凝縮された宿にまつわる様々なことを
維持管理することも重要なことであり、当館の使命と感じております。