2019年05月01日
「和気は百福を生ず」とよみます。正面玄関の床の間に掛けさせていただきました。このお軸は、母である先代の女将が不在の中で、館内のしつらえを少しづつ気にできるようになってきた頃、書庫の中から見つけたものです。石苔亭いしだで仕事をするようになり、日々悩み苦しんでいた自分から救い上げてくれるきっかけとなったお軸で、ちょっと背筋が伸びるような特別なお軸です。この言葉に込められた願いと、私が理想としている生き方が重なり、この書に込められた意味に励まされたのをはっきり覚えています。
後継者となることを覚悟した時、私は「自分がスポットライトを浴びるのではなく、社員がスポットライトを浴びれるような務め方をしたい。周囲が女将に期待をもつのを理解しながら、私は私が女将として望むこと、私のなりたい女将は社員が光り輝き、周囲の方からもてるように経営すること。」と、自分の考えを定めました。でも、この考えを真っ向から否定される事が多々あり、悩んだものです。そんなある日、出会ったこの書は心の救いになりました。
私の思いは、お香の煙りのように、静かにたたずみ、空間に染みつき、宿の中の環境を染めてゆけるものでああってほしい。強制するのではなく、教え込むのでもなく、石苔亭いしだの環境が人の心に影響を与え、本人の内から湧き出でる当たり前の心がそれであってほしいと思うのです。
この書を書かれた比叡山 瑞応院の山田龍裕様は
「どんな場所であっても、自分が光る事よりも相手を輝かすことに努めたい。和を保つには、お互いが我を抑え、忍耐強くなければならず、慈しみの心で相手を励まし、活かしてゆけるようでありたい。叡智を出し合い、助け合ってゆきたい。和気があれば、お互いの力が2倍にも3倍にも高まります。」と、和の心が、家庭や社会や世界に広がってほしいと、思いを込められ書を書かれたと伺いました。
女将としてここで働く社員の方々が、多くのお客様と素敵な時間を過ごし、幸せや優しさを通わしあい、あたたかなやさしい日々をおくっていただきたい。それは必ずお客様に通じ、巡り巡って自身の幸せにつながってくると信じています。
私が望む私づくりは、誰に何を言われようと、また、人に疎まれ、裏切られても、人を憎むことは決してせず、自分も含めそんな弱い心を持つのが人であることを慈しみ、とことん許し、優しくあること。自分自身を磨き続けること。それが生きるということ、と言い聞かしながらきたことが、今の私を造りだし、ここまで頑張ってこれた理由でもあると感じています。
新しい時代を迎えることで、改めて弱い自分と向き合い、姿勢を正して、明るい未来を思い描きたいと思います。